Switch版月姫の感想【ネタバレがある】

Switch版月姫を購入した。 販売開始から時間が経過しているが、初回限定版の在庫がまだあるようだったのでそちらにした。

設定資料集が入っているがシュリンクされており「全エンディングクリア後に読んでね(意訳)」と書いてあるが、 全エンディングって……何個? となる。 3個だそうです。

 

 

前提

私は原作発売当時は対象年齢に達していなかったので噂でしか知らないが、往年インターネットでものすごく流行しており様々な噂を見かけたので断片的に知っていることもある程度。

タイプムーンについてはかつてメルブラをゲーセンで遊んだことがあり、空の境界は小説版を読み、Fateは知らないがFGOをやっていた時もある。

ここでは「月姫とは~」みたいな解説はなく、単純に感想を書く。

 

演出面

一昔前のノベルゲーのような「背景一枚にキャラ立ち絵が置いてある」ということはなく、場面に合わせて立ち絵の大小、角度を付けて表示される文章場面に合うよう調節される。 「距離を取った」という表現場面であれば背景も遠くなるし相対するキャラ立ち絵も小さくなる。 個別スチルの枚数が飛びぬけて多いわけではないけど画面を見ていて飽きることもそんなにない。 すっごい見たなこれというのは主人公の部屋くらい。

戦闘シーンではエフェクトも入るしちょっと動いてる風にもなる。ずっとヴィジュアルノベルゲームやってなかった人間からすると新鮮だし豪華な印象。文章を読むのに邪魔と感じるほどの演出過多でもなく楽しめた。

 

BGMもよい。 よいのだが、デフォルトの音量バランスだとちょっと聞きにくいのでBGMボリュームを上げてキャラボイスを下げて私はちょうど良かった。 やっぱりBGMがいいと文章を読む時の感情の乗りがいい。

 

日付をまたぐ際の演出やBAD END後のヒントイベントへ入る導入が長いし飛ばせないのがストレスになる。 BADも分岐シーン回収も多いので何回も見るのにスキップできないのはマイナスだった。

 

システム面

Switchのゲーム起動画面から「月姫」を選択すると即座にモノローグが始まって焦った。 まず設定からやろうと思っていたんですが、そんな気持ちを余所にどんどん話は進むし書いてある地の文と読み上げの声で言ってることが違ったりしてエッちゃんと読まないとだめなやつじゃんと本当に焦った。 ゲームを起動したらタイトル画面でまず止まってほしい。(初回起動時以外は普通にタイトル画面で止まる)

Switch版では左コントローラのぐりぐり動くスティックで動くところと下の物理ボタンでないと動かないところがあって驚いた。 そんなもんなのか?

 

設定では既読スキップも存在するが、実際にはできる箇所とできない箇所があるので早送りで対応する部分があり分岐シーン回収に手間がかかる。

一つのルートを読み物として攻略関係なく楽しんでいるうちはいいけど、BAD回収やシエルルートでシナリオ進行をするために選択肢を試す回数が増える内にだんだんストレスになってくる。 このあたりでは物語の没入感も深くなっているのでシナリオと関係のないところでストレスになるのが特に気になった。

 

アルクェイドルート

想像よりサラっとしていた、というのが感想。 これは原作ノーマルエンド準拠なのかな?と思ったがどうやらこれがトゥルーエンド相当のシナリオらしく、ますます混乱した。 

 

主人公がアルクェイドを17分割して殺してしまう理由が結局わからなかった。 直死の魔眼を持っているとはいえ、アルクェイドを見た瞬間スイッチ入って性格が変わってヒトコロスプリンターになった理由ってなんなんだ。 志貴がロアになっていればアルクェイドを殺す理由も衝動も理解できるけどそうなったのはシエルルートでだし、謎。

ついでに感情のない死徒殲滅マシーンだったアルクェイドが今作この性格になっているのもなぜなんだろう。 環境に適応しているにしろ人に近すぎないか?

この二点が不明なのが私の月姫に対する全体の理解を阻んでいるので、原作では判明しているのであればこの理由は入れてほしかった。 だって……アルクェイドルートなんだよ!?

 

ヴローヴが設定や演出込みで戦闘シーンや内情の描かれ方がめちゃ良かった(三択は全部外した)反面、ロアは登場から退場まであっさりしていたのでそれも驚いた。 ロアってヴローヴとかいうぽっと出の新参者より主人公やアルクェイドに因縁のある宿敵では……ないのか? こんな流れ作業で!?

戦闘を主軸に置く物語でないからヴローヴでチュートリアル終わったから本戦はこれでよし!なんだろうか。 志貴が直死の魔眼で殺したので転生できなくなって完全消滅したんだよね? あっさりと……。 

ここより学校へ行く前にアルクェイドが夜の街を飛び跳ねているシーンのほうが「アルクェイド!!!!」となり良かったので、そこで気持ちが盛り上がったわりにすぐロア倒せてしまってどうするんだこの感情。

 

シエルルートをやった後から思えば完全にアルクェイドルートは月姫チュートリアルで、月姫原作を知らなかったら正ヒロインはシエルなのだと思っただろう。 パッケージヴィジュアルやメディアでの扱いから勝手にそう思い込んでいるだけで別にアルクェイドは正ヒロインではないと言われれば「そう……」と納得はするが。

単純にアルクェイドルートだけでは謎のままの部分や解決していない箇所が多すぎ(夜に犬が吠えてたところとか)るのが気になった。 選択肢を間違うとすぐに主人公がやられてしまってBADになる部分も含めて読んでいて面白かったけど「ここはなんでこうなったの?」に対する解がない(=原作ではあるが出されていない)のが非常に引っかかっている。

 

アルクェイドはかわいくて、不思議で、最強で、弱いところもあって、かまってあげたくなるように描かれていて、プレイしていれば問題なく好きになるキャラ。 月の殺戮者でとってもかわいいお姫さま。 デート服も戦闘服もある。 かわいいね。

そんな規格外の彼女と思いを遂げるほど親しくなってなお結局最後は彼女と離れて終わり、というのがあっさりしすぎているように感じてしまい物足りなくなっている。

 

調べてみるとFateのセイバールートもお別れで終わるそうなので、人間は人間以外とは決して添い遂げられないというのが作者の信条なのかもしれない。 対等な関係になるには人間やめなきゃいけないと言われればそれはそう。 死ぬまで一緒にいたいってのは人間側のエゴだしね。

アルクェイドのことはアルクェイドルートより他ヒロインルートで物語が進んでいくにつれて底知れなさや魅力が深く描かれていくのかなー。

 

シエルルート

一週目ではどうやっても辿り着けないのでさらに設定を深堀りするためアルクェイドルート以上にボリュームがあるのでよい。

アルクェイドルートでも登場したノエルや阿良句が役割を持って動き出すのでここから月姫が始まるんですねという印象。

 

ここでもすべての謎や疑問は解消されないが、収録されていないキャラのルートでどんどん明らかになっていくそうです。 そう……。

VSヴローヴでのシエルとの共闘や、主人公の異変とそれに対して役割を果たそうとするシエルとで痛みやら葛藤やら後悔やら決意やらがちゃんと段階を踏んで盛り上がっていくので単純におもしろい。 差し違えるEDと代わりにノエルを倒すEDが気に入った。  

 

「あなたがロアだから監視してただけですよ」と告げる部分は事実でありそう言う事でシエルは心の安寧を保とうとしたし、主人公にちゃんと自分を憎んでもらうことで迷いなく自分を嫌えるようにして自分の感情を隠そうとする特性が全部出ていた。  代行者としての使命と主人公に対する思いと自分の過去への清算が全部混ざっているので、やっぱり人間である以上人間はやめられないということなのかもしれない。 そこを割り切ってしまうと人間やめましたになってしまうんだろう。

 

加えてアルクェイドルートでは影の薄いノエルがシナリオできちんと機能してくるのでここまできてようやくノエルが気に入ってきた。 正直ヘイトタンクか?と思っていたキャラがちゃんと意思と目的を持ってがんがん動く描写は健康によい。

シエルというキャラがいればノエルという役割のキャラが発生するのもさもありなんでというところだが、ノエルは死徒になっても根っこは変わらず臆病だったし、最期までシエルを許せなくて、その理由が「シエルが人間だったから」っていうのがすごく人間味があってよかった。 あんなに憎んでいた死徒になることを選んでもなお、シエルが化け物でいてくれたら諦められたんだよなぁ。

 

私はゲームにおいて最初に付き合った女を一生愛するタイプなので月姫においてはアルクェイドを一生愛するのだが、シエルルートでもアルクェイドの好感度を高くしておく必要がある、というのが面白かった。  結局このお姫様をどうするか? というのが月姫をやるうえで避けられない問題なんだな。 「上に立つものとしてあなたは血を流しなさい」みたいな物言い、最高! アルクェイド……好きだ。 やはり別キャラルートで魅力を上げてくる。 その状態のアルクェイドを愛したいのだが。

 

もちろんシエルも魅力的だし、主人公が惹かれるのは充分理解できる。 人間の背負う人生か? ノエルはお父さんとお母さんを返してって言ったけどシエルだって同じ思いがあるし、その時の感覚も記憶もあって一生忘れないそれを「自分のしたこと」と(ロアの特性によって)思っていて自死を選びたくても選べない、ノエルの全部盛り上位互換なんだよね。 シエルはそこを無理矢理乗り越えて吸血鬼殲滅マシーンになろうとしている。ほぼなっている。

そりゃ好きになっちゃうでしょう、絶望や逆境から泥臭く這い上がってなお苦しみながら正義の味方やってるキャラは。

 

アルクェイドが好きだ!と言っている自分とシエルが好きだ!と言っている自分は並行世界の異なる自分なので同時に存在することができる。 いいことですね。

 

そのほか

私は秋葉が好きで琥珀が好きで翡翠が大好きになったので遠野家ルートがないことに怒りと悲しみを持っている。 秋葉は主人公をすごく大事に思っているから誰に何を言われても遠野家に戻したって分かるように描かれているし、節々から主人公にもうなにも起きてほしくないオーラが出ているのに主人公がぜんぜん秋葉を鑑みない選択肢を見てはおい!!という思いがある。 家族や同じ家に住む人間は大切にしろ!!!

結局主人公は遠野家の人間ではないので秋葉と結ばれても倫理的にもOKなのだがまだ”妹”なので不可侵領域として大切にしたい。 

 

シエルルートで主人公が遠野家で暴れたときの琥珀さん怖かったな。 この人絶対なんかあるな、という底知れなさの演出がうまい。 ずっと笑顔だけどあの時の笑顔は目が死んでたしな……。

翡翠はずっと顔色や声音が一定なクールタイプなのになんとも可憐なので庇護欲の高まりが強い。 この子も昔何かあって人間辞めてましたとか言われたら泣いてしまうかもしれん。  翡翠は俺の聖域でいてほしいので主人公とも結ばれないで欲しい。 なんかもっと普通の人と好い仲になって幸せそうな翡翠を送り出してやりたいよ。

 

総括

出てくるキャラクターをは丁寧に描写されており好感度が高い。 収録されているシナリオは充分楽しめたし、続編が出たら買うでしょう。 

BADやシエルノーマルなどを見ていくにつれ、何かを起こして何かを変えられたことで失われたものがあるなら自分も何か失わなければ対等ではない、みたいなテーマがあるように感じた。

自分が払った以上のものを貰うことが嫌いか、世界の釣り合いみたいなものをすごく気にしているか、エンタメだから最後は都合よく終わるぜ!という風にはしたくないんだろう。 それが作者の特性なのか月姫というコンテンツに対してのテーマなのかは分かりませんが。 そこを含めて設定がブレてないのがよい。

 

ただ私はこのゲームがこのゲーム1本で完結しないことに対し、原作ありのリメイクだから書かれていないことは原作の雰囲気で補完するなり次回作まで待ってねという雰囲気がユーザーに対する甘えに思えて仕方がないし、それがタイプムーンだからなーwとかリメイクが出ただけで感謝!と言えるほどタイプムーンに思い入れがあるわけでもないので普通に嫌だなと思っている。

顔だけ出して本編に何も関わってこないキャラとか……なぜ出したんですか?

早く続編が出るといいですね。